先天性トキソプラズマ症。胎児への感染率は初期と中期と後期で全く違う?【流産/妊婦/IgG】

妊娠中のトキソプラズマ感染に関して調べてみました。

日本人のトキソプラズマ症の感染率は?

トキソプラズマに感染しているかどうかは、トキソプラズマ抗体(IgG、IgM、IgG activity)があるかどうかで判断されます。
トキソプラズマ抗体は、身体にトキソプラズマが感染した際に、トキソプラズマと戦うために身体が作った免疫で、一度作られると無くなることはありません。

日本人は他国と比較して、生肉(レアステーキ、生ハム、ローストビーフなど)を食べる習慣があまり無いため、トキソプラズマの感染率は他国よりも低めです。
生肉を食べる習慣のない地域だと、20歳で2%、30歳で3%程度の人が既に感染していて、一方、牛とろ、牛肉のたたき、鯨の刺身、馬刺し、鳥刺し、ユッケなどを食する文化のある地域だと、20歳で20%、30歳で30%程度の人が既に感染しているとも言われています。
また、地域にかかわらず、小さい頃に猫のいる公園でよく遊んでいた人、砂場遊びが大好きだった人、ネコ科の動物とよく触れ合っていた人、ガーデニングが好きな人などは既に感染している確率が高いです。
日本において、妊婦さんが既にトキソプラズマに感染して、トキソプラズマ抗体を持っている確率は5~10%程度と低いため、残りの90%の妊婦さんは妊娠中にトキソプラズマ症にならないように感染を予防することが必要です。
妊娠中に初めてトキソプラズマに感染してしまう妊婦さんは全体の0.1%(1000人に1人)程度との報告もあります。
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トキソプラズマ抗体は陽性、陰性どちらならOK?

トキソプラズマIgGが陰性の場合

IgGが陰性なら、ほとんどの場合、トキソプラズマに感染したことがないということになりますので、妊娠中に感染しないように注意が必要です。
しかし、IgGが陽性になるのは感染後、数週間が経ってからなので、ごくまれに、感染後すぐで、IgGがまだ陽性になっていない時期に検査をして、陰性という結果になっている場合があります。

トキソプラズマIgGが陽性の場合

IgG抗体は、トキソプラズマに感染した後、2ヶ月頃にピーク量になり、その後はだんだんと量が減るものの、何年もの間、陽性を保ちます。
このため、偽陽性(本当は陰性なのに間違って陽性となってしまう)以外だと、トキソプラズマに感染したことがあるということになります。
しかし、IgGが陽性という結果だけだと、いつトキソプラズマにかかったのかはっきりは分かりません。
そのため、トキソプラズマIgMの検査と、IgGのはかりなおしをします。
IgM抗体は、初めて感染してから2週間後くらいに陽性となり、数ヶ月で陰性に戻ります。

IgMが陰性の場合

トキソプラズマIgGが陽性でIgMが陰性なら、数カ月以上前にトキソプラズマに感染したことがあると分かります。

IgMが陽性の場合

トキソプラズマIgGが陽性でIgMが陽性の場合、数ヶ月以内にトキソプラズマにかかったことがある可能性が高いと分かります。しかし、妊娠中なのか、妊娠以前なのかは判断できません
また、まれに、感染後数ヶ月経っていても、IgMが陰性にならず、低い値で横ばいのままというケースもあります。
IgGactivityなどの検査を専門機関で受けるように勧められるかもしれません。

先天性トキソプラズマ症の感染率は?

妊娠中に母体が初めてトキソプラズマに感染すると、トキソプラズマが胎盤を通って胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症になることがあります。
しかし、母親が感染したからと言って、100%の胎児が必ず感染するわけではありません
先天性トキソプラズマ症となる確率は、妊娠初期に感染すると15%、中期で30%、後期で60%程度です。

先天性トキソプラズマ症の症状は?

先天性トキソプラズマ症の症状は、水頭症、網脈絡膜炎、脳内石灰化、精神運動障害(発達遅滞)などが知られています。他に、低出生体重、脳炎、リンパ節腫脹、肝脾腫黄疸(肝機能障害)、貧血、血小板減少などの症状が出ることもあります。

妊娠初期の後半~妊娠中期の前半(10週~24週)に母体がトキソプラズマに初めて感染すると、重症の先天性トキソプラズマ症になりやすいと言われています。

妊娠初期だと、先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんが生まれる確率は低く見えますが、これは、胎児が体内死亡や流産になるため、(原因不明の流産とされたりして)先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんとしてカウントされないからです。
妊娠後期では、胎児に感染する確率は高いですが、比較的軽症のことが多く、生まれてすぐには分からない程度で幼稚園や小学校くらいになって視力低下や眩しさを訴えだしてから網脈絡膜炎が見つかることもあります。
(すぐに症状が出ないため、妊娠後期におけるトキソプラズマ症の胎児への感染率は、生まれてすぐには計算できず、正確な統計がとれていません。感染率は60%より高いと思われます)

トキソプラズマ症の治療法は?

スピラマイシン(商品名:アセチルスピラマイシン®)

妊娠中にトキソプラズマに感染した場合、胎児への感染を防ぐためにスピラマイシン(商品名:アセチルスピラマイシン®)という抗生物質が使用されます。
スピラマイシンは胎盤で濃度が高くなり、胎盤からへその緒を通してトキソプラズマが胎児へ侵入するのを防ぐ役割があります。
しかし、治療開始が遅れると、トキソプラズマの侵入を完全に食い止めることは不可能で、感染を最小限に抑え、重症化を防ぐ治療になります。

ピリメサミン(ピリメタミン)・スルファジアジン

トキソプラズマの治療薬は、スピラマイシン以外にも存在します。
感染している赤ちゃんは、生後、スルファジアジン(sulfadiazine)とピリメタミン(pyrimethamine、商品名ダラプリム®Daraprim®)などを用いた治療を受けるのが良いとされています。
しかし、これらの薬は国内未承認薬です。
国内未承認薬は、医療機関では取り扱いがなく、処方も出来ない(もし処方できたとしても混合診療となり、ソレ以外の治療も全額自己負担で保険が使えなくなる)ので、個人輸入などで手に入れて、医師の指示通り使用することになります。
※熱帯病治療薬研究班(http://trop-parasit.jp/index.html)に相談